ことわざに「賢者は愚者からも学ぶが、愚者は賢者からも学ばない」というのがあります。皆さんは賢者ですから、この講演からいくつかのヒントを持ち帰っていただければありがたいと思います。
長野駅からこのホテルまでタクシーに乗りましたが、返事をしない運転手さんでお金を払って降りるときにも、ありがとうございましたも言いませんでした。お客様から月給をもらっていることを忘れています。社長から月給をもらっているのではありません。皆さんはお客様から月給をもらっていることを決して忘れてはいけません。
憲法では国民の義務をいくつか決めていますが、税金を納める義務も規定しています。ですから社会人になれば働かなくてはいけないのですが、働けるだけ働くのが正しいと思いますし、お金はもらいたいだけ貰えると考えたほうが良いと思います。このときのポイントはお客様の立場に立って考えることが大切です。豊臣秀吉が木下藤吉郎の時代に信長のぞうりを懐で温めた話や、信長の馬に自分のお金でよい餌を食べさせた話が相手の立場に立って考え仕事をするよい例になります。
お客様に学び、お客様の立場に立って考える利益創造会社になることが、目標になります。常にお各様にとってプラスになるかと考えることが重要です。それを自分中心に考えるからダメになるのです。自分中心に考えていると必ず売上が落ちます。売上が落ち始めたらもう一度、目的やプロセスをチェックしなければいけません。売場、現場を見ることが基本です。売場に立って、お客様の目で見ることが大切になります。自分がいくらがんばっても、会社全体がダメな環境でどうしようもないという方がおられますが、心配することはありません。必ず外部で評価をしてくれる人が現れます。スカウトの声がかかりますからそれまでがんばれば良いのです。
次にお客様の立場に立って考える場合に基準となる哲学が必要です。公害や欠陥車が問題になっていたアメリカでケネディ大統領が提唱した消費者4つの権利が有名です。
1. 安全である権利
2. 情報が与えられる権利
3. 意見が伝えられる権利
4. 選択する権利
今でも立派に通用するすばらしい内容です。イトーヨーカドーは4つの誓を掲げています。
1.
私たちはお客様にとって誠実な会社になることを目指します。
2.
私たちは取引先にとって誠実な会社になることを目指します。
3.
私たちは銀行・株主にとって誠実な会社になることを目指します。
4.
私たちは従業員にとって誠実な会社になることを目指します。
これが日本語と英語で書かれているわけですが、外国から来た方もほめてくれます。またこの誓を実行してきたことがグループの今日の業績につながっていると思います。
私の経歴をお話させていただきますと、学校を出てからパンのメーカーに勤めていました。仕事の関係でアメリカに行っていたことがあり、セブンイレブンのことは当時から面白い店だと思っていました。39才のときイトーヨーカドーがセブンイレブンを日本で展開すると聞いて、すぐに面接を受け入社しました。店舗開発や商品部の仕事を手がけ、筆頭常務のとき、妻が病気になり、仕事漬けの生活から妻と一緒の時間を作るため、3年かけて退職しました。十分に働きましたので、妻と過ごしても困らない状況を作ることが出来ました。
仕事は一生懸命やることも大切ですが、常にwhyと問いかけることも大切です。見識を持つことも大切なことで、これらを習慣化することがその人の実力になります。イトーヨーカドーの伊藤社長に教えられたことも多くあります。残りの時間で実例を交えながらお話したいと思います。
セブンイレブンという店名は7時から11時まで営業しているからついたという人がいますが違います。セブンイレブンというのは普通の人の生活時間を表しています。7時におき11時に寝る生活を表現しています。そして普通の人が買ってから5分以内に使うものを3000品目集めた店というのがセブンイレブンのコンセプトです。考え方そのものを徹底して考えるのがアングロサクソンの人のすごさで、日本人には真似の出来ないことです。このコンセプトにしたがって毎日商品を探し、購入し、ナゼ必要かを考察し3000品目を揃えました。このプラン、ドゥ、チェックの繰り返しがセブンイレブンの企業文化になっています。ただまねをした会社とは業績が大きく違うのは当たり前です。
開発部長だった当時、酒屋さんを加盟店にした例が多かったのですが、私の加盟させた店舗は業績がいい店ばかりでした。その理由は、当時の酒屋さんの平均年商は3千万円でしたが、年商5千万円以上だけを入れていたからです。決算書を見せてもらう必要などないのです。事前に立ち話で「良く売れますね。月商1千万いきます?」「6百万だよ。」と聞いておけばいいのです。答えが3百万円ならこれ以上話を進める必要がないのです。こういう仕事の仕方を前始末といい、基本のひとつです。
伊藤社長に教えられた事に、筋肉マンのおまけつきのチョコレートを販売したときのことがあります。子供たちのブームになっていた商品でした。前金を払って仕入れ、飛ぶように売れて得意になっていると、現場を確認した伊藤社長から販売を終了するように指示がありました。子供たちがおまけほしさに買い、チョコを食べきれずに捨てていました。一生懸命に働いている親が見たら悲しむことです。公序良俗に反すること、企業としての良心に反することはしてはいけない。売れている商品ほど気をつけなければいけない実例です。
金儲けのコツは支払を良くする、約束どおり払うことです。イトーヨーカドーグループは月中の支払日に資金を借りても月末には必ず返すことを繰り返してきました。銀行の支店長に面倒ではないですか、継続してもいいですといわれても必ず返すことを続けてきました。その信用が必要なときの必要な資金手当てにつながっています。
セブンイレブンにとって牛乳はなくてはならないアイテムで4つのメーカーが納品していました。どのメーカーも配送費がかさんで儲からないということでした。4社共同配送を提案すると前例がないとのことで、最初はライバル社の商品は運べないとメーカーが拒んでいましたが、説得の末、日本初の共同配送が実現できました。各メーカーも利益が出るようになりましたし、配送車が減って社会的に良い面も多くありました。セブンイレブンも原価を下げてもらえました。各店に毎日70台の配送車が立ち寄っていましたが、15台まで減らせました。ナゼの効用です。
店の売上に経営者の人格が正直に反映される例は数多く見てきました。同じ立地と思えるのに50%も売上に差のある2店がありました。セブンイレブンのおにぎりは人気商品のひとつです。賞味期限は24時間ですが、4時間までが美味しいのです。売上の良い店の経営者は4時間で売れるように努力していました。売上の悪い店の経営者は賞味期限を使って廃棄ロスを出さないように努力していました。法律違反をしているわけではありませんが、お客様に商品を合わせる努力を続けることがお客様に支持され、売上につながっていました。
商売で成功するには難しい理論はいらないと考えています。「お客様に学ぶ」ただこの一点だけだと確信しております。
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